パウロ外伝 冒険者編1話【冒険者パウロ】


パウロ
「冒険者になるか」

とある日の長閑な昼下がり。
ウィシル領へ向かう馬車の荷台で揺られながら、パウロは不意に呟いた。

女A
「冒険者になりたいの?」

パウロ
「うん、そうそう。
冒険者って自由な感じがするし、俺に合ってる気がするんだ」

女A
「ふふふ、そうかもね。
パウロは縛られるのは似合わないわ」

女A
「でも……縛るのは、嫌いじゃないでしょう?」

女が身体を寄せてくる。
膝の上に乗せられた手に手を重ね、パウロはやわい胸元に顔を近づけた。

女B
「ああーッ! ずるいわ、姉さん!
あたしに馬を引かせておいて、ひとりだけ楽しもうとするなんて!」

女A
「何もずるくないわ!
あなたは昨日の夜にパウロと充分楽しんだでしょう!?」

女B
「はあ!? 昨日だって結局、姉さんが途中で混ざってきたじゃない!」

パウロ
(モテる男はツラいな)

旅の資金が底をつきそうになっていたパウロが、ウィシル領に戻る途中だという行商の姉妹と出会い、同行することになって、早3日――。

美味しい食事と美しい姉妹のおかげで、パウロは気楽な毎日を過ごせている。

パウロ
(次はどこへ行こうかって時に、彼女たちと出会ったのはちょうど良かった)

生家のあるミルボッツ領はもちろんのこと、さんざん暴れまわり、悪名が広がっているであろうアスラ王領にも居続けることはできない。

ないとは思うが、あの水神レイダに未だ追われている可能性も、捨て切れはしないのだ。

パウロ
(貴族の世界は窮屈で、かといって、剣士として道場で修業するのは面倒なことだらけ……)

パウロはこれまでに何度か、冒険者になることを考えたことがある。

パウロ
(ついに行動に起こす時がきたってことだな)

パウロ
(冒険者になれば金も稼げるし、何よりそこには、俺が求めてきた自由がある)

女A
「……ロ! パ……ロ! パウロってば!」

パウロ
「! ん? 何?」

女A
「何? じゃなくて!
パウロが決めてって言ってるの!
わたしと妹、どっちの相手をするの!?」

女B
「あたしよね!?
きみとの夜は一生忘れられないって、言ってくれたもの!!」

女A
「なんですって!?」

パウロ
「え、えっと、それは……」

女A
「どっちにするの!?」

女B
「はっきりして!!」

美しさを霞ませるほどの怒りの形相。
姉妹にぐぐっと迫られ、パウロは冷や汗をかいて、あとずさる。

パウロ
「……どっちか、なんて選べない……」

パウロ
「選ぶためにも、もう1度、3人で試してみるのはどうだろう?」

女A
「………………」

パウロ
(どっちがいいかなんて選べない。
だってどっちとも相性が良かったんだ!)

その後パウロが荷馬車から叩き出されたことは言うまでもない。

ただでさえ少なかった金は数日で完全になくなったが、パウロはなんとかウィシル領入りを果たした。

パウロ
(姉妹との道中が満たされてた分、ひとり旅の味気なさといったら……はあ……)

パウロ
(やっぱり潤いは大事だ。
けど、まずは……)

パウロ
「冒険者ギルドに行こう」

パウロはそこから1番近い場所にある冒険者ギルドへ行き、美人な女性職員に目をつけて声をかけた。

女性職員
「冒険者登録ですね。
こちらの用紙にご記入ください」

パウロ
「名前と職業……」

パウロ
「この名前っていうのは、名前だけでいいの?」

女性職員
「はい、大丈夫です。
それに偽名でも罰則はありません」

パウロ
「そっか」

家名のノトス・グレイラットは、とっくに捨てている。
だから『パウロ』と名前だけを記入した。

続いて注意事項と規約に目をとおす。
子供の頃逃げ回っていた堅苦しい文章に辟易としながら、とりあえず最後まで読んでいく。

女性職員
「書かれましたら、こちらに手を乗せていただきます」

魔法陣が刻まれた透明な板を用意され、パウロは言われたまま手を乗せる。
女性職員が板の端をポンと指で叩いた。

女性職員
「名前・パウロ。
職業・剣士。
ランク・F」

彼女が用紙の内容を読み上げて、もう1度ポンと指先で叩く。
すると魔法陣がほんわりと赤く光り、すぐに消えた。

女性職員
「どうぞ、こちらがあなたの冒険者カードになります」

パウロ
「これが……」

なんの変哲もない鉄の板。
そこにはボンヤリと光る文字が書かれている。

名前:パウロ
性別:男
種族:人族

年齢:13
職業:剣士
ランク:F

女性職員
「お見受けしたところ、他にお仲間はいらっしゃらないようですが、パーティの説明をお聞きになりますか?」

パウロ
「あ、うん、聞く」

パウロ
(堂々と女の人と一緒に行動する。
そのための冒険者登録だしな)

女性職員
「では、説明させていただきますね」

女性職員にパーティの詳細を聞く。
堅苦しい文章ではなく、美人の口から出る言葉は、パウロの頭にすんなり入ってきた。

女性職員
「――と、なります。
以上で登録は終了です。
お疲れさまでした」

女性職員
「依頼を請ける際には、そちらの掲示板から剥がして、受付まで持ってきてください」

パウロ
「うん、あなたのところに持って行くよ」

女性職員
「はい? 担当はわたくしでしたが、ここだけでなく、別の者のところでも――」

パウロ
「そうじゃなくてさ。
依頼を請ける度にあなたに会えるだろう?」

女性職員
「は、はあ……?」

パウロ
「そうだ! もし良ければ、今夜ふたりで食事でもどうかな?
街に来たばかりだから美味しい店、教えてほしいんだ」

女性職員
「! ……今は仕事中ですので、そういったお誘いはお断りしております」

パウロ
「そうか、残念だ……」

パウロ
「だったら今度は、あなたが仕事中じゃない時に誘うよ」

子供に誘われたからか、女性職員は目を丸くする。

パウロ
(感触は悪くないな)

パウロ
(それに、今日断られたとしても、これからチャンスはいくらでもあるだろうし)

パウロはホクホクとした気持ちで受付を離れ、さっそくパーティを組んでくれそうな女性を探しはじめた。

パウロ
(さすが冒険者……。
どの女の人もみんなスタイル抜群だ!)

コルセットで作られたわけではない自然なくびれに感動しながら、パウロは目についた女性に話しかける。

女冒険者
「パーティ? きみと?」

パウロ
「そう、どうかな?」

女冒険者
「どうって言われても、きみはまだ冒険者登録したばかりの新人でしょう?」

女冒険者
「F級の……しかも、きみみたいな子供に、背中を預けて戦えないよ」

パウロ
「………………」

もっともな言い分にぐうの音も出ない。
いくら剣の腕が立つといっても、ここにはそれを知る人はいないのだ。

女冒険者B
「お前とパーティを組む?
冗談はやめろ」

パウロ
「冗談じゃない。
本気で言ってるんだけど」

女冒険者B
「……って、言われてもな……。
なんと言うかさ……、お前、冒険者らしくないんだよ」

女冒険者B
「品行方正って感じもしないが、ゴロツキって感じでもない。
中途半端でよくわからん、気持ち悪い」

パウロ
「………………」

パウロは冒険者ギルドにいた女の冒険者たちに、片っ端から声をかけて回った。
しかし、誰からも色よい返事はもらえない。

連戦連敗。
そのあまりのフラれ様に、ついにどこからともなく笑いが起きた。

男A
「はっはっは! 坊主、もう諦めな!
女の冒険者ってのは、ガキが気安く口説ける女じゃねえんだよ!」

男B
「ちょっと小綺麗な顔してるからって、F級の小僧が調子に乗ってんなよ!」

パウロ
「ああ? なんだと?」

男A
「女を口説こうなんざ100年早い!
そんなに女に盛ってんなら、ウチに帰ってママのおっぱいに甘えてな!」

パウロ
「上等だ! 俺をガキだって言ったヤツ!
まとめてぶっ飛ばしてやるから、表に出ろ!!」

男A
「表に出ろだぁ?
誰に向かって喧嘩売ってやがるんだ!?
生意気言ってんじゃねえぞ!」

パウロ
「誰にって?
お前に売ってんだよ!」

パウロは剣を抜くと、一瞬で男との距離をつめて横に一閃した。

理不尽にではあるが、水神によって鍛えられたパウロの剣速に並の冒険者ではついてこれない。

男A
「ぐはっ!?」

男の身体が吹き飛んで壁にぶつかった。

あまりに一瞬のできごとに、冒険者ギルドの中に静寂が満ちる。

パウロ
「壁、壊れたな。
だから表に出ろって言ったんだ」

パウロ
「次は誰だ?」

男B
「テ、テメェ……!
ガキだからってタダで済むと思うなよ!?」

血の気の多い冒険者たちが集まっていたらしい。
殺気立った面々が席を離れて外へ出て行く。
パウロは彼らのあとに続いてギルドを離れた。

そして――。

1時間もしない内に、パウロはその実力を周囲に知らしめた。
すると、状況は一変する。

女冒険者
「きみはすごく強いんだね。
うちのパーティに来る気はある?」

女冒険者B
「よければ1度、パーティのメンバーに会ってみないか?」

男C
「まさかここまで強いとはな!
有望な新人だ!
どうだ? うちで研鑽をつんでみねえか?」

引く手数多とはこのこと。
1度パウロを振ったパーティをはじめ、ギルド内にいたさまざまな冒険者が勧誘してくる。

パウロ
(力を示せば認められる。
わかりやすくていいじゃないか!)

男だらけのパーティはもちろん即座に断った。
何人もの女冒険者に誘われたパウロは、3日もの間、これまでにないほど悩みに悩み……。

結論、もっとも胸の大きな女性がいたパーティに、前衛の剣士として加入することにした。

女冒険者
「ようこそ、パウロ。
うちに来てくれて嬉しいよ」

女冒険者
「きみの実力は疑ってないけど、冒険者として初めての仕事でしょう?
簡単な依頼からこなしていこう」

パウロ
「ああ、わかった。
あなたみたいなに綺麗な人と一緒なら、俺はどんな仕事だっていいよ」

パウロの初めての仕事は迷子のペット探し、E級の依頼だった。

パウロ
「どんな仕事だっていいって言ったけどさ……。
もっと派手な依頼はないの?
こんなの、剣の腕とか関係ないだろ……」

女冒険者
「きみのランクはまだ低い。
こういう簡単な依頼をこなしていくことで、地道にランクを上げていかないと」

パウロ
「ふーん、地道に……」

パウロ
(美人と一緒なのは嬉しいけど、なんて言うかさぁ……)

パウロ
(思ってたのと違うんだよなぁ)

パーティを組んだ冒険者たちが、ペットを探して街中を駆けずり回っている。

パウロはそれを横目に、パーティメンバーのひとりと宿にしけこんだ。
初っ端からの任務放棄である。

パウロ
「ペット探しなんて全然楽しくない。
冒険者ってのは、もっと楽しいもんだと思ってた」

パウロ
「魔獣と戦ったり、宝を探したり、とんでもなく強い奴と戦ったりしてさ……」

パウロ
「せめて次の依頼は街の外に出よう!
リーダーに頼めないか?」

女をベッドに押し倒しながら尋ねると、彼女はクスクス笑いながらパウロの頭を抱き寄せて口づけてくる。

パウロ
(任務放棄でこんなことしてたら、頼みなんて聞いてもらえるはずないよな)

パウロ
(まあ、そうなったら、べつのパーティに入れてもらえばいいか!)

パウロはそう気楽に考えて、今はただ目の前にある享楽に耽った。

その後、パウロは案の定、パーティを追い出されることになったが、すぐべつのパーティに拾われた。

依頼は街の外に出て、山で薬草を採取してくるという内容だ。
低いランクでも問題ないと思われたが――。

冒険者
「はぁ、はぁ……クソッ!
採取地が賊の根城になってるなんて、聞いてねえぞ!!」

パウロ
「? 全員ぶっ飛ばして、採取したらいいんじゃないか?」

冒険者
「これだから新人は!
なんの情報も持ってねえんだな!」

パウロ
「どういう意味だ?」

冒険者
「あの賊の大将はお尋ね者なんだよ!
もう何十人も殺してるような奴だ!
俺たちじゃ手も足も出ねえ!」

冒険者
「……よし、みんな、ここは一旦ギルドに戻るぞ。
お尋ね者がいることを報告して対応してもらう」

パウロ
「逃げるってことか?」

冒険者
「自分の力を過信して、引き際を見誤るような冒険者はすぐ死んじまう。覚えとけ、新人」

パウロ
(偉そうにカッコつけて言うけど、要するに強い奴を見たら逃げろってことだろ?)

パーティのリーダーが撤退を決め、メンバーはそれに従うことに異議なしのようだ。

けれど、パウロは納得がいかない。

パウロ
「じゃあ、あんたたたちは、ここで隠れていればいい」

冒険者
「なんだと?」

パウロ
「見たところ、あんな奴、たいしたことはない」

パウロ
「何十人も殺したって言うけど、どうせ戦い方を知らないような人を一方的に殺したってだけの、クズだろう?」

パウロ
「さっさと捕まえて、薬草も採取してギルドに戻ればいい」

パウロの言葉にみんな唖然としていた。
誰も何も言わない。

パウロ
(逃げる気満々だった奴らに、何言っても意味ないか)

パウロはあっさりと見切りをつけると、剣を手に、賊たちがいる根城へひとりで向かった――。

パウロ
「――以上。というわけで、賊は全員縛りつけてきたから、あとはギルドのほうでなんとかしてくれ」

パーティのメンバーはパウロを残し、とっくにギルドに帰還していた。

彼らは想定外の事態が起きたと報告し、その対処に向かう冒険者を選抜していたところに戻って来たのが、ひと仕事終えたパウロである。

冒険者
「ほ、本当に、お前ひとりで……?」

パウロ
「ビビッて逃げるような奴ばっかりで、他には誰もいなかったしな」

冒険者
「!! な、なんだ!?
俺たちを責めるつもりか!?」

冒険者
「俺たちは適切な判断をして、撤退するって決めたんだ!」

パウロ
「適切な判断ね……。
どんな風に言いつくろったって、結局は怖くて逃げただけじゃないの?」

冒険者
「ッ……! リーダーは俺だ!
命令や決定を無視して、独断行動するような奴が偉そうなこと言うな!」

冒険者
「お前はクビだ!
うちのパーティから出て行け!」

激高する男をパウロは冷めた目で睨みつける。

パウロ
「言われなくても出て行くさ。
腰抜けとパーティなんか組めるかよ」

その後、ギルドでこの騒動についての話が広まった。
独断専行、命令無視をする新人……。
しかもパーティの女にすぐ手を出すときた。

パウロはひとりで依頼を請ける、ソロの冒険者として動き始めた。

パウロ
(気楽でいいけど、女の子との時間がないのはなぁ……)

戦力が必要な時にパーティに誘われることはあったが、加入しては追い出されの繰り返し……。

パーティに固定で加入することがないまま、パウロは実績をつみ重ねた。
そして、冒険者登録から1年が経った頃――。

パウロ、14歳。
彼はD級の冒険者になっていた――。

パウロ
(お? けっこう割のいい依頼だ。
C級なら……うん、余裕でいけるか)

???
「お前もその依頼を請けるのか?」

パウロ
「あ?」

隣に人が来ていたのには気づいていたが、まさか声をかけられるとは思っていなかった。

パウロ
「そのつもりだけど、文句でもあるのか?
つーか、誰だよ、お前」

1年の冒険者生活の間に、パウロの言葉遣いは周囲に感化されて多少荒くなり、
冒険者に染まってきている。

ギース
「俺か? 俺はギースだ!」

パウロ
「知らねえな」

ギース
「俺はお前のこと知ってるぜ。
パウロだろ?」

パウロ
「知り合いだったか?
1度見たら忘れない顔してるけど、覚えてねえや」

ギース
「だろうな、はじめましてだ。
パウロは何かと話題に上るからな。
一方的に知ってるだけだ」

ギース
「1匹狼の冒険者。
新人とは思えないほどの実力者……。
1回話してみたかったんだ」

パウロ
「それを言ったのが可愛い女の子だったら、食事にでも誘ってたんだけどな」

ギース
「ん? 誘ってもいいんだぜ?
実は財布の中身がちょっと寂しくてな……」

パウロ
「寝言は寝て言え」

パウロ
(なんなんだ、このサル顔……。
妙に馴れ馴れしいな)

男に用はない。
パウロは早々にギースから離れようとした。

ギース
「この依頼、けっこう割がいいよな。
なあ、パウロ、俺と一緒に受けないか?」

パウロ
「は?」

ギース
「だから、俺とパーティ組もうぜ?
リーダーはお前でいいから!」

パウロ
「冗談だろ?
なんで俺がお前と組まなきゃいけねえんだよ。
このくらい俺ひとりで充分だ」

ギース
「ほうほう、ひとりで充分?
そう言わずに俺をつれてってみろよ!」

ギース
「分け前は7:3……、もちろん俺が3でいいから! な!」

パウロ
「しつこいな……なんのつもりだ?」

訝しげな顔で尋ねて、パウロはハッとする。

自分のことをずっと見ていたような言い方と、しつこく同行を希望する勢い……。

パウロ
(もしかして、俺に気がある……!?)

パウロ
「俺は男に興味ねえからな!?」

ギース
「んんっ!? なんの話だ!?
俺だってべつにそっちには興味ねえよ!?」

パウロ
「じゃあなんで……いや、いい。
理由を聞いたところで、お前と組む気はないからな」

ギース
「頑固なヤツだな。
だからどこでも浮いちまうんだよ」

パウロ
「あ?」

ギース
「どうすれば組んでくれるんだ?
お前のパーティの条件はなんなんだ?」

パウロ
「条件?」

パウロ
「女」

ギース
「そりゃどうしようもねえだろ!
他には!?」

パウロ
(しつこいな……)

パウロ
「じゃあ、俺よりランクが上の冒険者」

辟易したパウロは、この場をさっさと去るために、適当に思いついた条件を口にする。

ギース
「何?」

パウロ
「だから、俺より上のランク……、C級以上の冒険者とだったら、ふたりで組んでもいい」

パウロ
(どのくらいの実力者か、見ればわかる)

パウロ
(こいつはたいしたことない。
せいぜい、E級ってとこだろう)

相手を観察して推測する。

パウロ
「だから、お前とは――」

だから、お前とは組めない。
パウロがそう言おうとした時、ギースがニッと笑った。

パウロ
「?」

ギース
「その条件なら問題なく組めるな!」

パウロ
「は?」

ギース
「俺はC級の冒険者だ!」

パウロ
「………………」

パウロ
「はあ!? お前がC級!?
俺より上だって!?」

パウロは信じられずに絶叫する。
どれだけまじまじと見ても、実力者とは思えないし、威圧も感じない。

ギース
「はっはっは、そういうことだ!
男に二言はねえだろ? パウロ?」

パウロ
「っ……わかったよ!
足手まといになったら置いてくからな!
それに! 今回限りだぞ!」

こうしてパウロとギースはふたりで1度限りの条件でパーティを組み、依頼を請けることになった。

依頼の内容は荷運び。
人ひとり入りそうなほど大きな木箱を、山を越えた先の村まで運んでほしいという内容だ。

パーティのリーダーはパウロでいいと言われたが、実際に依頼主と話したのはギースだった。

ギース
「ふむふむ……」

パウロ
「木箱、荷馬車にくくりつけ終わったぞ。
さっさと行こうぜ」

ギース
「山越えのルートだけど――」

パウロ
「真っ直ぐ行けばいいだろ?
1番デカい道だし、最短距離だ」

ギース
「却下だな」

パウロ
「ああ? なんでだよ?」

ギース
「この時季、そのルートは霧が深くなる。
荷物の中身は保存食だって、依頼主が言ってただろ?」

パウロ
「ああ、そうだっけ?」

ギース
「聞いてなかったのか?
過疎化が進む村に日持ちのする保存食を運んでくれって言ってただろ」

ギース
「保存食には乾燥させたものが多い。
最適なルートは少し遠回りになるが……、南の迂回路だな」

パウロ
「………………」

パウロには考えつかないことだった。
ひとりなら環境なんて気にせずに運び、最悪、中身を台なしにしていたかもしれない。

パウロ
「……なんでもいい!
さっさと行くぞ!」

ギース
「へいへい。馬の手綱は俺が引くから、お前は荷を……って、おい、もう乗ってんのか」

パウロ
「うるせえ! 早くしろ!」

パウロは苛立っていた。

強くもなんともない、自分より弱い奴だが、冒険者としての経験は明らかに上だ。

荷馬車に揺られている間、パウロはひと言も話さず、ギースがひとりでずっと喋っていた。

ギース
「――で、その時にそいつが……と、日が沈んできやがったな。
完全に日が暮れる前に野営の準備といくか」

パウロ
「野営?
もう少し行った先に町があるだろ」

ギース
「ん? お前、その町に行ったことあるか?」

パウロ
「ああ」

ギース
「じゃあ、逗留したことは?」

パウロ
「? ねえよ。その先に行くのに、ちょっと立ち寄っただけだ」

ギース
「あの町の宿には泊まるなってのが、冒険者の間では常識だ。
町ぐるみでぼったくってきやがるからな」

ギース
「まあ、まともにパーティを組んだことがねえなら、誰かに教えてもらうこともなかったろうけど」

ギースはそのサル顔でニヤリと笑い、手際よく野営の準備をはじめる。

パウロは苛立ちを抱えたまま、ふてくされた顔で荷馬車を引く馬の世話をした。

ギース
「おーい、パウロ。メシにしようぜ!」

辺りが暗くなった頃、ギースに声をかけられ、パウロはモヤモヤしたまま焚火を囲んだ。

パウロ
「! これ……」

ギース
「ん? なんか嫌いなモンでもあったか?」

パウロ
「そうじゃなくて、なんだよこれ?
全部作ったのか!?」

パウロは思わず唾を飲む。
彩りの綺麗な料理からは湯気が立っていて、品数も多い。美味しそうな匂いが食欲を誘った。

ギース
「材料はほとんど一緒だ。
調理法と味つけを変えたら、少ない材料で何品も作れるんだ」

ギース
「ほら、冷めちまう前に食えよ」

パウロ
「あ、ああ……」

ギースに思うところはあったが、空腹なのは確かだ。
パウロはスープの入った器に口をつけた。

パウロ
「!! う、美味っ……!!」

ギース
「ははっ、そうだろ?
コツは弱火でじっくり、だ」

スープだけではない。
焼かれたパンはまったく硬くなく、メインの料理は絶品だった。

食事をする手が止まらない。
ギースへの思うところなんて一瞬で吹き飛び、パウロは目の前の料理にがっついた。

パウロ
(なんでこんなに美味いんだ!?)

パウロ
(こいつが作った!?
火加減の調節もできない焚火で!?)

胃袋がいっぱいになって、食欲が満たされてくれば、苛立ちなんて些細なものは薄れていく。

パウロ
(……もういい、認めるしかない)

パウロ
(こいつは俺の下なんかじゃない。
立派な冒険者だ)

パウロ
「おい、ギース。おかわり」

ギース
「おう! いっぱい食えよ!」

ギースへの敵意がなくなったからか、指定された村までの道中は不快な気分になることもなく順調に進むことができた。

荷物を渡した、その帰路のこと――。
荷を気にする必要がなかったため、パウロたちは最短ルートを辿っていた。

パウロ
「霧が出てきたな。
お前の言ったとおりだ」

ギース
「だろ? 急いで進むのは危険だ。
馬もいるしゆっくり行こうぜ」

パウロ
「! 待て」

ギース
「いや、ゆっくり行こうってだけで、止まる必要はないんだぜ?」

パウロ
「そうじゃねえよ」

パウロ
「……見られてるぞ。
霧の中から視線を感じる」

ギース
「!?」

パウロ
「9、10……もっといるか。
けっこうな数だな」

パウロはそれとなく剣を握る。
ギースは馬を止めると、青い顔で振り返った。

ギース
「そういえば、聞いたことがある。
どこかから流れてきた盗賊が、ちょくちょく目撃されてるって……そいつらか?」

パウロ
「それはわからねえが、霧にまぎれて襲ってくるつもりだろうな」

パウロ
「お前、戦闘は?」

ギース
「さ、最低限……?」

パウロ
「そんなことだろうと思ったぜ。
俺の傍から離れるなよ……って、やっぱり今のなしな」

ギース
「は? なんでだよ?」

パウロ
「今のは、いつか女の冒険者と組むか、美人の依頼人を護衛するかって時に、キメ台詞として言おうと思ってた奴だから」

パウロ
「お前に使うのはもったいない。
だから、今のはなしな」

ギース
「じゃ、じゃあ俺はどうすりゃ……」

パウロ
「目の届く範囲にいれば助けてやるよ」

ギース
「この霧の中で目の届く範囲って……」

パウロ
「お、来るぞ」

パウロは剣を構えて荷馬車を飛び降り、霧の中から現れた襲撃者を倒していく。

パウロ
(数が多いだけで、たいしたことねえな)

水神流の道場で何度となく兄弟子たちに絡まれた。
複数に対する戦いには慣れている。

パウロ
(経験が役に立った! ありがたい!
……なんて風には絶対思わねえけどな!)

襲撃者に遭遇したこと以外は何も問題なく、依頼は無事に達成できた。

一応のリーダーであるパウロはギルドで報酬を受け取り、そこからギースの取り分を渡す。

ギース
「へ? これは多すぎるだろ。
綺麗に半々じゃねえか」

ギース
「俺は7:3でいいって言ったろ?
それに戦闘で俺はなんにもしてねえし……、もっと減らされても文句は……」

パウロ
「戦闘で活躍したかどうかだけで、報酬の額が決まるってことはないだろ」

パウロ
「受け取れよ。お前の正当な報酬だ」

ギース
「!!」

ギースは驚いた顔をしながら、ぎこちなく金の入った袋を受け取った。

ギース
「……本当にいいのかよ?
お前は知らないだろうけど、俺は荷物持ちとか呼ばれてんだぜ?」

ギース
「俺と組んだ奴で、きっちり山分けするような奴はいない。
お前だってよ、そうしたっていいのに――」

パウロ
「ふざけんな。
仕事した奴が受け取らねえで、誰に報酬をもらう権利があるってんだ」

パウロ
「いいか! 1回しか言わねえからな!
お前のメシはすげえ美味かったし、知識は役に立った」

パウロ
「だから報酬は山分けだ。
これ以上ゴチャゴチャ言うなら、ぶっ飛ばすぞ」

ギース
「は、はは……なんだよ、それ……。
お前って奴は本当に……」

よほど動揺したのか、ギースはブサイクな笑みを浮かべる。

それから少し沈黙し、おそるおそるといった風に口を開いた。

ギース
「な、なあ、パウロ……」

パウロ
「なんだよ?」

ギース
「組むのは1回限りって話だったけどさ、それ、なしにしてくんねえか?
これからも俺と組んでくれよ」

パウロ
「………………」

ギース
「気が向いたらでいいから。
その時は声かけてくれ」

パウロ
「冗談じゃねえ!
俺は女からの誘いしか受けねえって決めてんだよ」

パウロはフンと鼻で笑ってギルドを出て行った。

ギースの誘いをすげなく断ったパウロだが、その後ふたりは何度となく組んで依頼をこなしていくことになる。

ギースが誘ってくることもあったし、パウロが渋々、本当に渋々、誘うこともあった。

ギース
「パウロ! 昇級してよかったな!
これでお前もC級の冒険者だ」

パウロ
「ああ、お前と並んだ。
ま、すぐに追いぬいてやるよ」

ギース
「ははっ、だろうな。
……けど、そんな簡単に行くか?」

ギース
「聞いたぜ? お前また、パーティを追い出されたらしいじゃねえか!
今度は何をやらかしたんだ? んん?」

ニヤニヤするサル顔の男に、パウロは嫌そうに顔をしかめる。

パウロ
「パーティのメンバーと宿にしけこんだら、そいつがリーダーの女だった」

ギース
「修羅場だな!
そりゃ追い出されるぜ」

パウロ
「ああ。殴られそうになったから、逆にボコボコにしてやったさ」

パウロ
「あんなに弱い奴に美人の恋人がいるなんて……!
しかも同じパーティのメンバーって、いつでもどこでもヤり放題じゃねえか!!」

ギース
「またお前は……くだらない理由で暴れてんだな。
そんなんだから、お前を入れたがるパーティがいなくなるんだよ」

ギース
「剣の腕だけならB級……、いや、A級に匹敵するだけの力があるってのに、もったいねえよなぁ……」

パウロ
「……うるせえ」

ギース
「素行が問題なんだよな、素行が」

しみじみ呟くギースを無視して、パウロは席を立った。

ギース
「ん? どこ行くんだ?」

パウロ
「パンプーア」

ギース
「パンプーアっていうと、王竜王国の北の端にある町だよな」

ギース
「あそこは国の外れにある町だから、中堅の冒険者が多いんだ。
揉めごと起こすな……って言ってもムリか」

ギース
「よし! 俺も行くぜ!」

パウロ
「は!? 頼んでねえよ!」

ギース
「ちょうど依頼も入ってないしな!
準備してくるから、街の入口で待っててくれ!」

言うが早いか、ギースが飛び出して行く。
残されたパウロは溜め息を漏らした。

パウロ
(……ま、いいけどさ)

予期せず、パウロはギースとふたりで、王竜王国のパンプーアへ向かうことになった――。

――問題なく依頼を片づけたあと、パウロとギースはパンプーアにある酒場で食事を済ませながら、受け取った報酬を確認する。

パウロ
「適当に半分持ってけ」

ギース
「適当にって、お前なぁ……」

パウロ
「俺は今忙しいんだ。
話しかけるのはあとにしろ」

ギース
「忙しいって、メシ食ってるだけだろ。
……って、どこ見てんだ?」

パウロの視線の先では、冒険者だと思われる女たちが楽し気に酒を酌み交わしていた。

ギース
「声かける気か?
やめとけ、やめとけ。見たらわかるだろ?
あれは相当気が強いぞ」

パウロ
「わかってねえな。
服の傷や汚れを見る限り、あれは戦闘終わりの祝勝会だ」

パウロ
「戦いのあとは高揚するもんだし、そんなところに酒を入れたら、開放的で奔放な姿を見せてくれるはずだぜ」

ギース
「ゲスいこと考えてんな。
問題が起きるニオイがプンプンしやがる」

パウロ
「変なこと言うなよ。
割り切って遊ぼうってだけで、何か起こるって確信したみたいに……」

ギース
「起こらなかったことがねえだろ。
ロクなことになんねえから妙な気起こすなよ」

パウロ
「………………」

ギースの忠告を素直に聞くパウロではない。
数時間後には、欲望のおもむくまま、女の冒険者たちと宿になだれ込むことになる。

その結果、案の定と言うべきか、パウロはトラブルに巻き込まれることになった。

ギース
「だから言ったじゃねえか!」

もちろん、当然のようにギースも巻き込まれ、問題の対処にあたることになる。

そうしているうちに3か月が経ち、ふたりはその間、町にある大鳥亭という名の酒場を拠点に、パンプーアに滞在していた。

ギース
「はぁ……金にもならない問題の対処で、あちこち駆けずり回るハメになるとはな……!」

パウロ
「適当に依頼を見つくろって、ドカっと稼げばいいだろ」

ギース
「俺らのランクで、ドカッと稼げるような依頼は請けれねえよ」

ギース
「儲かるB級以上の依頼は、基本的にパーティを想定したモンだからな」

パウロ
「やっぱパーティに入るしかねえか……」

ギース
「この界隈じゃ、お前をパーティに入れたいなんて奴は、ひとりもいねえけどな」

ギース
「いっそ、お前と似たようなはぐれもんを集めて、パーティでも組んでみたらどうだ?
俺も入ってやってもいいぞ?」

パウロ
「お前は論外だ。
どうせパーティを組むなら、可愛い子か綺麗な子と一緒がいい」

ギース
「こりない奴だな。
そうやってパーティメンバーを女として見るから、どこのパーティーにも入れねえんだ」

呆れたようにギースが溜め息をつく。
パウロは肩をすくめた。

パウロ
「ま、どうしてもパーティを組みたいわけじゃないしな。
そんなもんを組まなくても問題ないくらい、ソロで上のランクに上がればいいだけだ」

ギース
「それが簡単じゃねえって話だろ?
それとも何か? いい案でもあるのか?」

パウロ
「ああ、あるさ。見ろよ、この剣」

パウロはそう言って、腰の剣を鞘から引き抜き、テーブルの上に置いた。

ギース
「いい剣じゃねえか。これがどうしたんだ?」

パウロ
「いい剣だが、それだけだ」

パウロ
「古来より、英雄ってのは、聖剣や魔剣を扱い、凶悪な悪魔や巨大な怪物をバッタバッタとなぎ倒すもんだ。
それも一人でな」

実際にパウロが目にした、水神レイダの剣は特別だと言わんばかりに輝いていた。

ギース
「つまり、何が言いてえんだ?」

パウロ
「このすげえ俺に見合うすげえ剣があれば、ソロでも上を狙えるってことさ」

ギース
「……一理あるが、それでどうする?
そのすげえ剣ってのに心当たりでもあるのか?」

パウロ
「水神レイダから奪う」

ギース
「はあ? 水神?
剣を向けた瞬間、ぶっ殺されて終わりだろ」

パウロ
「……だよなぁ」

冗談に正論で返され、パウロは頭をかいた。

パウロ
(パーティなんて面倒だ)

パウロ
(100歩譲って、魅力的な女の子と組むならいいけどさ)

そう思う反面、これから先、手っ取り早くランクを上げるためには、パーティを組んで高ランクの依頼を請けることが最適だとわかっている。

その時、大鳥亭の扉が勢いよく開き、ひとりの冒険者が飛びこんで来た。

冒険者
「大変だ! 例の遺跡!
やっぱりあそこはミリス教団の古神殿だったんだ!」

冒険者
「それだけじゃない!
その遺跡の奥にはガーディアンがいて、なんと、なんとだぞ!
そのガーディアンの奥には、聖剣が置かれていたって話だ!」

冒険者
「聖ミリスの、失われた聖剣だ!」

男の話に、酒場にいた他の冒険者たちがざわつく。
それはパウロとギースも例外ではなかった。

パウロ
「失われた聖剣……!
おいギース聞いたかよ!」

ギース
「もちろんだ!」

パウロ
「まさに天の助けだ。
俺のために聖剣が出てきてくれたように感じるぜ!」

聖ミリスの武具。
それは聖ミリスが神より与えられたとされる、この世で最強の武具だ。

パウロ
「ギース! 行くぞ!
手に入れないわけにはいかねえだろ!」

酒場の中が沸く。
パウロは勢いよく席を立ち、そのまま飛び出そうとしたのだが――。

???
「てめえら静まりやがれ!」

色めき立つ冒険者たちを、ひとりの男の一喝が鎮めた。
その男はこの酒場のもっとも良い席で、気持ちよさそうに酒を飲んでいた人物だ。

パウロ
(あいつ……美女を何人もはべらせてやがる!)

ギース
「トースマン……」

パウロ
「知ってんのか?」

ギース
「むしろお前、知らねえのかよ!」

ギース
「あいつは、A級冒険者パーティ『ロード・オブ・ジャッジメント』のリーダ、トースマンだ……」

酒場の空気が一瞬で変わるのを感じながら、パウロは静かにトースマンを睨みすえ、男が何を言うのか待つのだった――。



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